喫茶店で

先週の金曜日、会社終わりに疲れたよーーと遠回りして立ち寄った喫茶店Mに入るなり、「こんばんは」と客席の男性に声を掛けられた。驚いて顔を見てもどなたなのか思い出せず、頭の中の画像データを高速回転し数秒後ヒットした。喫茶店Oの店主の方だ!ビックリと気恥ずかしさが合わさったこの感じは、お互いにだろう。月に2,3回しかお休みを取らないOさんだけど今日は久々にお休みで、気になってたお店ということで初めて来たらしい。
MさんもOさんも一人で店を切り盛りされており、意気投合したように喫茶店経営の大変さと楽しさを話しだした。「今はコーヒーが流行っていて、どこの豆を使って、抽出の形式にこだわってって感じだけど、おいしいければそれでよいのにねえ」「バキバキにこだわったものを飲みたいなら他の店に行ってもらっていいし」「それよりも気持ちよく過ごしてもらえればね」「ずーっとスマホ見てるだけなのは淋しいから、つい話しかけちゃうんですよね」
にこやかな接客は気持ちよく、音楽の鳴り方も席の配置も絶妙で、本を読む人もお喋りする人も心地よく自分の時間を過ごすことが出来、飲み物や食べ物も「私はこれが好きなのでおすすめします」という気持ちが伝わってくるセレクトと美味しさを提供してくれるお二人の姿勢は、似ているなあと思えた。
私は店主に会うためにお店に伺っている。勿論美味しいのがあってこそだけど、ただそれだけではなく、美味しさも居心地の良さも店主がつくりだしたものであり、店に行くことは店主に逢うことと等しいからだ。店主の姿勢は店に表れるから、いくらオシャレな店構えだとしてもそれが真似ただけの上っ面か、店主元々のものなのか、その違いはどうしたってわかるものだ。そして芯があるからこその毒をこっそり持っていて、だからツルッとした雰囲気にはならず、引っかかりが生まれるのだろう。
お二人が会話し、私も輪に入り、隅っこにひとり本を読み耽る女性がいて、みんなの手元には珈琲がある。広くはない店内をどこかで見ている自分がいた。まるで映画のワンシーンのようだった。


そして今日の会社終わりに喫茶店Oに行った。「先週はどうもありがとうございました」とまずご挨拶したところ、「あちらに…」と言われて席を見ると、先週店内にいらっしゃった女性で、あのときにこの店を知り、来てみたとのこと。今はSNSだなんだとネット上で情報が行き交うけれど、そんな出逢いもあるのだ。そして今日お互いにここに来たという偶然の導き。Iron & Wineのアルバムが流れる中、Oさんとあれやこれやとお話し、店を出るときに隣席の彼女に「またどこかで逢いましょう」と挨拶をした。