店の継承

墨田区京島の商店街にあるパン屋、ハト屋。以前散策中に可愛らしい看板が付いた店舗を見つけて、写真を挙げたことがある。
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ハト屋は数年前、高齢の店主が逝去し閉店したまま空き店舗だった。しかし、縁も無い方がこの看板共々無くしてはいけないと建物ごと購入し、本業の傍らパン屋としての営業を引き継いだ、という話題を年末に見かけた。好感触なコメントばかり見たけれど、素人が急に出来るわけがなく、単純に美談として消費するには謎すぎたので調べてみると、こういうことだった。
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「再現ハト屋プロジェクト」だとは!
都市計画の専門家が墨田区のまちづくりに関わったことがそもそものキッカケで、墨田区の文化事業支援制度の上で行なう、いわば「まちづくり」のユニット活動というわけか。2000年以降の地域活性化だ新しいライフスタイルだリノベだなんだのが行き着いた先かーと、目から鱗だった。


店を血縁で継承するのではなく、その価値を他所から来た他者である各方面のプロフェッショナルが見出して、その街全体として新たにつくりだしていく。子供だから引き継ぐ、のではないのだ。祖父がはじめて父が継いだ家業が嫌で離れた私には、なんとも感慨深い。後継者不足で閉店が目立つ昨今、その街で暮らす人々の記憶にあるその味を、その佇まいを、継承するのだ。血縁に縛られていないからこそ、出来ることがある。店主1人が全ての業務をこなすのではなく、集まった人が得意分野を発揮し、自分の店を超えて街全体に波及すること。


冒頭に挙げたハト屋の写真を撮った時の散策は、気になる焼き菓子屋さんに行った後のことだった。その焼き菓子屋は古い長屋をリノベしたゲストハウスに併設されていた。界隈は若い人が始めた店舗が増えていて、理由としては家賃が安いこと。また、複数人で共同経営や、復業による不定期営業の店も多かった。

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元々この地域は「木造密集地域」であり、行政としてなんとかせねばというエリアだ。関東大震災の直後に深川や錦糸町の被災者が移り住んだことが始まりだそうで、この地域特有の問題もなかなか根深そうだ。先に挙げた記事は2002年のものだけど、この街で開業した親から受け継いだ人たちがいよいよ亡くなり、継承者不在で空き家が増える中で、この20年余り墨田区が行なってきたアートイベントの参加者たちが移り住むようになり、ハト屋のような動きが生まれる経過が興味深い。まちづくりの専門家が携わる「プロジェクト」だけに、墨田区と協議し数十年後どうするかを踏まえた上で「建物を購入」した可能性もありうるが、そういう店舗がこの商店街に増えれば、行政側にとってこの先の対応はこれまでよりもし易くなるだろう。


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この10年で全国で「まちづくり」「リノベーション」「空き家対策」「アート活動」が更に活発になった。これは行政が支援をするからこそ可能であって、財政難が加速する今後は確実に縮小されるだろう。すぐに結果が出るものでは無いだけに、分断されてしまうことがあまりに惜しい。直接的な触れ合いが絶たれる現状は永遠ではないと思いたいし、血縁などに縛られることなく、時代に合わせた新しい価値観による芽吹きはきっとあるだろう。一つ成功例が出れば、各地で真似されるのが「まちづくり」の必須からして、「再現ハト屋プロジェクト」のような継承が生まれていけば、街の風景が暴力的に壊されることなく、次世代に繋がっていくのでは無いだろうか。