久しぶりの食堂にて

今月から月曜はY氏の仕事の都合で夜ご飯は別々になった。朝から矢のように降りかかる業務をこなし続けた夕方、ご飯どうしようかなと考えた時、しばらくテイクアウトのみだったお店が店内飲食を再開するというので行くことにした。外へ出ると雨は激しく、予想外の降り方に傘と靴の選択を誤ったことを後悔しながら帰宅路を遠回りして店へ着いた。

「いらっしゃいませ!」明るい声で迎えられる。同年代の女性が1人で切り盛りするカウンターのみの小さな食堂は、変わらずこざっぱりとしていて、狭い厨房とカウンターの間には透明ボードが設置されていた。天井からの吊り方に苦慮が感じられた。
メニューは週替わりで肉か魚の2種から選び、副菜が2つと汁物がつく。鰤のソテーを選んだ。まず先に副菜が一つづつ来る。大豆とトマトとズッキーニの和え物。塩の効かせ方が絶妙でじんわり美味しい。続いて水餃子。柔らかくてプルプルの皮の中は豆腐あんで刻んだ胡瓜の食感が良い。茹でたての熱熱を頬張ることの嬉しさ。そして、鰤のソテーには細かくしたピーマンを味噌味で絡めてあって、鰤にもご飯にもよく合う。汁物は青菜とエノキのすまし汁で生姜がアクセント、沁みるなあ。この店はこんなちょっとした技が効いているのが素敵なのだ。どれもゆっくりとよく噛んで味わった。
左の席は近所の常連さんのようで、時折店主に話しかけ笑っている光景も気持ち良いなあ。そう、この店のこの感じが好きなのだ。店主のお人柄とお料理が店を作り、それに惹かれて客が集っている。ネットで見た料理目当てではない。


「以前もいらっしゃってますよね、確か近所ではないと仰って」と店主が話しかけた。
「わ、覚えてくださってるんですか。そうなんです。会社帰りに途中下車して立ち寄らせていただいていて」
例の件でしばらく休業されたのち、再開されたもののテイクアウトのみだったので伺いにくくなっていた。
「久しぶりにこちらで温かいご飯をいただいて、とても美味しくて、ようやくこの感じが戻ってきたんだなあと嬉しいです。ありがとうございました」
「いえいえそんな、またいらしてくださいね」


仕事では他者にうんざりすることばかりで疲弊するけれど、こんな場があるだけで気持ちが救われる。この2年余りで挫けることなく、今また豊かなひとときを作って下さることに心から感謝するのです。