今年の音甘映画館 【音編】

定期的に新譜チェックで実店舗に行くことは無くなったものの、家でネット見たりSpotify巡回によって「知る機会」は格段に増えたものの、きちんと通しで聴いていないアルバムも増えたと感じる。盤で買えないことも増えたけれど、去年買えなかったけど今年買えたものもあったり、去年配信で出たことすら知らなかったりしたものもある。それ含みで「今年の私」なのだ。



●Modern nature / Island of noise
modernnature.bandcamp.com

聴くたびに耳の奥にスッと刺さる。実験を繰り返し念密につくられつつ風通しが良いのは、発見する悦びに満ちているからではないだろうか。



●Mat Ball / Amplified Guitar
mathieuball.bandcamp.com

Spotify巡回中に見つけた1枚。音の深度が凄まじい。すごく好きなんだけど盤が手に入らないまま(円安……)



●Marisa Anderson / Still, Here
marisaanderson.bandcamp.com

荒涼とした空気に吹かれて立ちすくむ。寒いけどどうしても聴きたくなる、吸い込まれる、音。



Thurston Moore / Screen time
thurstonmoore1.bandcamp.com
去年bandcamp配信のみリリースを知らないまま、新譜と思ってレコード購入。厳密には『今年の』にはならないかもだけど。1曲目の1音で打ちのめされる。やっぱりこの人のギター好きだとつくづく思ってしまうのがダメ男に惹かれてしまうようでちょっとムカつく、チッキショーー!



●Sinesin duo / Hojas y rutas nuevas
SINESIS DUO - HOJAS Y RUTAS NUEVAStempojpn.com

キケ・シネシと息子のアウグストによるデュオ。何年かぶりに神楽坂に向かい、トンボロで珈琲を飲んでから大洋レコードで見つけた1枚。柔らかく穏やかな大河の流れを感じさせるギターの音色。まさに息子との対話のようなリラックスさのなかにキケのプレイヤーとしての円熟さとテクニック、アウグストの若さとセンスが合わさって素晴らしい。



●Gustavo Infante / P​á​ssaros
gustavoinfante.bandcamp.com

繊細に紡がれて宙に漂い軌道を残す美しい音。見えないのに見える、消えながらここに存在していく音。



●Maxine funke / Pieces of driftwood
maxinefunke1.bandcamp.com
アルバム未収録曲集なのでこちらも厳密には『今年の』に入れるのは違うけれど、話題になった昨年の新譜には特にピンと来なかったのにこれは妙に胸に響いて繰り返し聴いた。ジャケが素晴らしいのもあるかも。この1年といわず、日々の営みの中でつくられたささやかなpiecesを感じるからかもしれない。



●Mage tears / Cats in the cold
magetears.bandcamp.com

Spotify巡回中に見つけた1枚。配信のみなのが残念な、愛らしいジャケットワークに胸を打ち抜かれる。イギリスに住む女性ミュージシャンということしかわからないけれど、インスタを見るとベットルームミュージックを奏でる日々が伺えて、時代が変わって環境が様変わりしても、私たちの日々があることを思い感謝するのだ。



●Panda bear,Sonic boom / Reset
sonicboomspacemen3.bandcamp.com

温いなかにビリビリ走る電気風呂的な気持ちよさ。ずっと入っていられるし何度も入りたくなる。



●Yeseysesy / Consequences
friendship.lnk.to

個人的大事件のはずだったのに、なんというかシオシオになったことが残念すぎる。長年ヤマジカズヒデさんがつくる音楽を聴き続けてきたけど、石橋英子さん・須藤俊明さんと組んだこのアルバムには新たな扉を開ける挑戦が詰まっていて、なんだろうと聴きながらフッと体の中を通り抜ける風を感じて姿勢がシャンとしたあの感覚を、今年得た瞬間として私は忘れられない。元々何年か前のヤマジさんのソロで集まった3人の音遊びから生まれたアルバムで、ヤマジさんがもうこの感覚のなかにいたくないんだろうなと思わせる触れなさ具合が私には悲しい。3人の決して交わらないけれどあるいっときだけ重なって生まれたハーモニーは奇跡であり、きっと今後はないだろうけれど、2022年に陽の目を見た音としてこの場にキチっと表明したい。



この年々かベストに挙げてきた方々の新譜も出て、やっぱり好きだなあと思うけれどあのときほどの感覚にならないのは「私の今年の気分」とは違うからなのだろう。それはそれで良いことだ。
Eric Chenaux / Say Laura
The Wave Pictures / When The Purple Emperor Spreads His Wings
Horse Jumper of Love / Natural Part
Helvetia / get lost & other dimensions


Ryoji Ikeda / ultratronics
www.inpartmaint.com
10年ぶりのアルバムをライブセットで世界初演、で聴いた音があまりに強烈だったので家で聴くと物足りなく感じてしまったけれど、それこそレコードなど無い時代の、サロンで聴く中世ヨーロッパの貴族ぽいというか、アルバムという発表の場とは?という気持ち。


ラリーズがリマスター再発されて普通に聴くことが出来るようになったり、映画館で見る日が来るとはな「ソング・フォー・ドレラ」、「Dinosaur jr.|フリークシーン」・「クリエイション・ストーリーズ」・「Sarah Records|My Secret World」・・・私が重ねてきたものが「歴史になった」のだなあ。そして、「other music」を映画館で観たことも感慨深かった。映画館の大きなスクリーンに映るあの店は私の心の中に刻まれた風景そのもので、26年前と今が繋がった。マイク・ミルズ監督作は音楽と結びつくところが大きいからここに書くけど「カモン・カモン」もひとりの歴史、歩んできた歳月を感じるものだった。


私の今年の10枚もまだきっと続くであろう歳月のひとつでしかないけれど、つくりだすものの要素として大切なひとつだ。




Cornelius「Windmills of Your Mind」

まだ聴けないソノシート。小山田くんが音楽活動を始まるキッカケを作った井上さんの声掛けでリリースという経緯と販売方法に「もうこういうオトモダチ関係は・・・」と思ったのだけど、Martin Daffyとのスプリットであり、ミシェル・ルグランの楽曲をカバーしたColourfield版のカバーという幾重にも捻った偶然に驚かされる。来年からかつての活動状況に戻るのだろうか。どうか、良い環境でこれからもつくりつづけてほしいと切に願っています。