「here 」「ゴースト・トロピック」

2月11日祝日、昼前から恵比寿〜代官山のギャラリーを複数巡り、時間もちょうど合うしと、急遽渋谷に向かいル・シネマへ。(駅近になって行きやすくなった)


スチールの緑が印象的、植物学者の話のようで気になった「here」を観た。


引用 → Here : フォトギャラリー 画像(8) - 映画.com


とても好きな映画だった。日々の営みを映えに出来ると勘違いも甚だしい日本の代理店ビジネスではなく(ヴェンダースは悪くない)、都市生活者のシンプルな日々があった。食べる、歩く、寝る、つくる、見る、独り、誰か、赤と緑、鳥と苔。


主人公の移民労働者は建築現場で働きながらも、優しげで控えめな人柄として描かれる。部屋の冷蔵庫に残ったクタクタの野菜は煮込むことで生命を取り戻し、ビーツの赤が鮮やかなたっぷりのスープになって、お世話になる人へ手渡される。ある時は車の整備工場士へお願いとともに渡したところ一緒に外へ出て、近くの草むらでみんなと旨い旨いと言いながら食べるのだ。なんて素敵なひとときだろう。その行為に監督の未来への意志を感じる。
いつも通る道でふっと気になって緑が濃い森の中へと入り込むシーン。その、いつもと同じだけどちょっと違う何かが何かに繋がるという描き方が好きだ。


耳を澄まし、空を見上げ、足元を見て、掌を見つめること。


83年生まれのベルギーの監督バス・ドゥヴォスは自国の移民社会を描くにあたり、鬱屈とした生活や不満を語るのではなく、蔓延る暴力や差別を映すのではなく、日々の営みのささやかな行動を映すことで、ひとりではない誰かと共に「ここ」で生きているのだと感じさせてくれるのだ。決して声高ではなく、スープの温かさが掌に伝わるようにそっと。ビーツは「飲む血液」と言われる野菜だけど、誰かと湯気に包まれながら体内に入った血で誰かの血を流すことは出来ない。



「here」は最新作で、同時公開の「ゴースト・トロピック」は2019年作。こちらは23日祝日の午後に、そろそろ見逃しそうと思って観に行くことにした。
アラブ系の年配女性が終電を逃しお金もなく、歩いて帰宅する一夜を描いた作品で、きっと好きなはずと思いきや私の中の記憶と感情はこの映画の引力に導かれなかった。監督は散歩をあまりしない人なのかなと思えたのは、歩く姿と心象と風景が結びついていなかったからで、ギターのメロディも歩くリズムと合ってなくて過多だったなあ。それと、主人公の行動に疑問が多くてひっかかった。83年生まれベルギー生まれの白人監督がアラブ系年配女性を「潜在的な目線と表層的な解釈」で主人公にし「語りたいこと」を紡いでいるように感じてしまう。
もっとも、最新作の方が良いと感じたことは喜ばしくて、次回作も楽しみにしている。


両作で音楽を担当するAmeel BrechtはベルギーのバンドRazenのギタリストだそう。映画で知らなかったミュージシャンに出逢うことも嬉しい。
handsinthedarkrecords.bandcamp.com