「夜明けのすべて」

「夜明けのすべて」を観る前に思い出していたのは、三宅唱監督 2014年作「無言日記」だ。「playback」は"頭で撮ってる"印象を受けてピンと来なかったけど、「無言日記」はiPhoneで撮った日常の血肉が息づいていて、2015年の恵比寿映像祭で見た時めちゃくちゃ興奮したのを覚えている。
恵比寿映像祭 ~ 三宅唱《無言日記/201466》――どこの誰のものでもない映画 - 音甘映画館
この試みで"日々の機微を空気ごとすくいとって" 作品にする手法を会得した印象があり、これは高度な映画的知性と技術があることが前提で、若き日の監督に「映像日記」の制作を勧めたboid樋口さんの彗眼よ、、、。
こちらでトレイラー見ることできます。→ Watch 三宅唱監督『無言日記』2014〜2016 Online | Vimeo On Demand on Vimeo


その後の「きみの鳥はうたえる」はちょっとエモすぎるけど登場人物がその土地で"生きている"し、「ワイルドツアー」での子供目線や、合間の「アイドルのPV」もすべて、今作「夜明けのすべて」に繋がる要素になっている。




画像引用元:夜明けのすべて : フォトギャラリー 画像(4) - 映画.com

2月16日金曜日、会社を休んで朝イチの回で観た。
人気若手俳優を起用、人気作家の小説が原作、シネコンで上映の商業映画だなんて。しかし関係各所からの要望をキッチリこなしながら「自分の映画」を撮ることに自覚的で志を強く感じる。だからこそ素晴らしきスタッフに恵まれるのでしょう。企画制作はホリプロで主演2人の所属事務所ではないことにも驚いた。



上映時間は長めだけどダレるところがなく、でも刺激の強いシーンもなく、とにかく丁寧。電車が見える起伏ある街並みの行き来やカセットテープからの話し声(斉藤陽一郎!!)など、さりげなくも映画の素晴らしさが随所に光ってた。体感と知識に裏付けられた映画技術もさることながら、上司から中学生に至るまで人物の描き方に誠意と品性の良さがある。



先日観た「here」と同様に、どのような未来でありたいかを考え、それにはどのような物語を紡ぐべきかを2020年代の映画監督として意志を持って作っていると感じる。過酷な現実ではなく、こうあればと思い描く良き世界を「映画として体感し続けること」で私たちはそちらへと向かうことができるのではないか。台詞やまなざしは心を通って体内に染み、我がことになって表れる。豊かで美しいエンドロールはそのまま私たちの日常に続くのだ。


星は昼間は見えない。夜に見上げれば点在していて「⚫︎⚫︎座」と定義することで形がつくられる。それは人の繋がりと共通している。想像する。大きな声で煽動するのではなく、そっと伝えあう。
理論と感覚と身体と世界が一体化して、優しく繊細で大胆で強靭。ふと浮かぶ穿った捉え方をも包み込んでしまう、真摯な姿勢の作品が「商業映画」という場で広がることは辛い現実のなかに灯る明日への希望だ。



三宅監督作はずっと見てるけど前作だけ見てないのは去年とにかく映画見る気になれなかったからで、今作は見に行けて、感情を大幅にブレさせることもなくしっかりと対峙できてよかったなあ。



以下のインタビュー発言に泣く。

・主人公の物語以外に、別の人の時間も流れているのを見れると、映画って楽しいなあと思うんですよね。たとえばカーチェイスの映画で、主人公たちがカーチェイスをしている同じショット内で牛が呑気に草を食べていたりとだか、主人公が怒っている横で笑っている人がいることだとか。普段生きていると自分の視点も感情も一つに縛られるから、そういう広がりを同時に感じるのはなかなか難しいけれど、でも映画なら見られるんですよね。


・その一ヶ月後にまたきて、更に一ヶ月後にまたきて、という波のサイクル。それを踏まえて未来を考えるのか、それを想定せずに未来を考えるのでは、社会の設計が全く違うはずだよね、ということをようやく思い知りました。
監督インタビュー【音声ガイド制作者の視点から】映画『夜明けのすべて』 三宅唱監督へ|Palabra株式会社