金沢建築散歩

8月25〜27日、金沢へ行ってきた。1日目は主目的であるY氏方の親族に会い、2・3日目は建築をガッツリ見て、美味しいものを食べた。折しも台風が接近し心配したものの、のろのろと居座る台風の影響は受けずに過ごし「ボクは晴れ男!」を豪語するY氏鼻高々である。以下、金沢建築メモとして記録。




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谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館 竣工:2019年 
建築家 谷口吉郎の住居跡地、吉郎の長男である建築家谷口吉生の設計による。

開館5周年記念特別展 "谷口吉郎の「金沢診断」 -伝統と創造のまちづくり- "がとてもよかった。空襲を受けなかった金沢は古い街並みが残ったものの、焼け野原からの復興を遂げて盛り上がる他都市に遅れを取った不安感も沸くなかで、金沢市が「金沢らしい」都市開発を模索し、出身者である谷口吉郎など有識者を起用し実施したのが1967年の「金沢診断」。これにより翌年、市伝統環境保存条例などルールづくりにつながった。
今も伝統を感じさせる風情ある街並みが残りながらも、北陸最大の都市として成長し発展する開発がされたことは素晴らしいし、この意識が風土として保たれていることが、2004年に "「新しい文化の創造」と「新たなまちの賑わいの創出」を目的に開設"された金沢21世紀美術館・2005年に北陸新幹線の延伸に向けた整備事業として金沢駅東広場に完成したもてなしドームと鼓門であり、これを契機に金沢が観光都市として新たな価値を生み出したことに繋がるのだろう。
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今回金沢市街地を巡ると、町家がゲストハウスとして再利用されている場所が目についた。また、立ち寄ったケーキ屋さんが以前Y氏親族と会食をした料亭が閉店し建物をリノベーションした場所だったりもした。
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昨今よくあるこういった事例が、浅いテンプレートにならずに「金沢らしさ」を保っていくのか、今改めて「金沢診断」をすべき時なのではないかと考えさせられた。



ここから裏手の犀川へ出た。近江町市場で買った握りたてのおにぎりを灼熱の河岸で食べてから桜橋を渡り、20分ほど。住宅街の中にスッと存在感を消すように「鈴木大拙館」があった。



www.kanazawa-museum.jp
鈴木大拙館 竣工:2011年 設計:谷口吉生
金沢市出身の仏教学者 鈴木大拙の記念館は、説明はほぼ無く、周辺環境含めた建物自体で大拙の哲学を感じ取る空間で、谷口吉生の特徴であるシンプルでシャープな作風と調和していた。あまり人のいない静かなときでよかった。ただし酷暑と疲労ゆえにまっさらな心境で受け止めることが出来なかった。晩秋に再訪したいな。

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建築主である金沢市が本多の森公園の斜面緑地に沿って緑の小径を整備し、金沢21世紀美術館周辺との回遊性も考慮したここに、生誕地が近い鈴木大拙の記念館を計画し、設計に谷口吉生を起用するのはあまりに見事な計らいすぎる。鈴木大拙を理解しているからこそであろうが、"なにもない"佇まいに振り切ったのは当初からの予定なのだろうか。


谷口吉生の設計による公共建築はもうひとつあるけれど、それは次回に。






北國銀行武蔵ヶ辻支店 竣工:1932年 設計:村野藤吾
元は南西へ約20mほどの位置にあり、近江町市場再開発に伴い曳家にて移動・耐震改修後2009年にリニューアル。村野藤吾の初期作品。下記サイトの航空写真でその様子が確認できた。
www.kanazawabiyori.com
初期作(森五商店東京支店の翌年!)という点を知らなくても幾分あっさりした印象は初々しく、当時は流行りも終わりではあったドイツ表現主義的な装飾。金沢に村野藤吾あるなんて知らなかった!



月曜日は公共施設も店舗も休みが多くぐぬぬとしたけれど、そうだ団地があるじゃない!と、金沢駅西口からバスに乗ってこちらへ。



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石川県営金沢諸江団地 竣工:1980年 設計:現代計画研究所(藤本昌也)
見た瞬間に「80年代初頭だな〜」と思いながらそういえばと思い出したのは、以前見に行った広島市の鈴が峰第2団地(コチラ→ 基町高層アパート 屋上見学会と市営平和アパートと鈴が峰住宅を繋ぐもの - 音甘映画館)。1981年竣工だから同時期なのか!その頃大量生産から個性を活かしたつくりに公営住宅のマスタープランが変わったのでしょうね・・・



1・2階はメゾネットの3階建。


スロープ。当時はバリアフリー関連の法令もないけれど、使い勝手を考慮して付けられた模様。

敷地内になんと、室生犀星の石碑!



号棟名が「木」「雀」「雲」など漢字1文字で、犀星の文字をサインに使用しているのだ!すごい!

県営住宅ゆえに維持管理予算は限られ、住民の自治による管理が重要になるだけに、経年劣化が進んでしまう点は否めない。けれど、最低限の暮らしの中で文化・教養を手放してはならないという意志が無意識でも継承されていくことが素晴らしい。



金沢といえば思い出すのは兼六園金沢城、伝統的な家屋の街並みがまずあって、昨今は金沢駅鼓門や金沢21世紀美術館を思い出す人も多いかもしれない。時代とともに変容出来る力のある街として存在し続けるのはなぜか。
金沢が風土として培った伝統と革新の精神を、加賀藩前田家が強固なものにし街づくりを行ない、それが継承されて近代化社会を迎えた。そのときに「金沢診断」があったことはとても意義があるし、新幹線延伸に伴って新たな街づくり計画が進む金沢の懐の大きさを実感する。暮らす人々自身も全国チェーン店を使い車で移動することが当たり前の今、「金沢らしさ」とは無意識下でどう捉えられるのか。その中で育った世代が今後どのように継承するのか、ネットを介したイメージにより訪れる人々が増えた状況も踏まえて、これからの金沢も楽しみだ。