空気人形

川を挟んであっちの世界とこっちの世界。舞台である東京の佃島界隈、URの高層マンションをバックに、こちら側には古い工場や家が細かにびっしりと。シンタローが破壊したくてたまらないんだろうなっていう街並。このあたりは好きな散策コースのひとつだからそれだけでウッとなってしまう。是枝監督の映画にはロケーションだけで持っていかれてしまう。前作「歩いても歩いても」の逗子周辺?の京急が遠くに走ってる高台の住宅地の風景にもぐっときたのを思い出す。
そしてキャスティングも毎度ながらに絶妙で、風景と同様に「イメージ誘導」が上手くって、人物の行動に「納得感」を与えてくれる。そんな中で高橋昌也さん演じるおじーちゃんの存在感たら!空気が変わるの。
で、なのです。薄ーい色素で映し出したセカイはあの人もこの人も孤独で空っぽだ、なんていう描写の数々はあまりに図式的記号的で、見ているあいだ疑問符がぷかぷか浮いてしまい、オロオロしてしまった。そんなこと言うの野暮なのかしら…。あからさまな演出は、これまでの作品にも顕著だけど、今回はどうにもにんともかんとも。監督は元々TV番組用のドキュメンタリーを撮ってきた人ということを考えると、ちょっとコワくなってしまう。
小難しい映画万歳!とはけっして思わないけれど、観客へ向けてここまでお膳立てしなくてもいいんじゃないかなあ、きっと監督はサービス精神があって優しい人なんだろうなあー、などと考えながらの帰り道なのでした。