光原社の澄んだ光変わらない光


光原社は訪れたい場所でした。母が購読していたミセスなどの雑誌や書籍に紹介されていたものを、私も子供の頃から眺めていたからか、「コウゲンシャ」と呟くと実家のリビングの風景と匂いが浮かんでくるのです。

繁華街の反対側に位置する材木町商店街の街路は石畳が敷かれ、宮沢賢治にちなんだモニュメントが並んでいます。「いーはとーぶアベニュー」と呼ばれるこの通りは平成5年に完成したそうですが、道路整備とともに各店舗がイメージに合わせて改築されていることにも驚きました。バブル期あたりから計画されていたと思うけど、実現するまでタイヘンだっただろうなあ…。


たそがれ賢治さん。

ん?あれなんだ?と思ったら、

立体駐車場でした。


そして光原社へ。小さな異国の街がそこにありました。足を踏み入れると空気がシャンとして、でも落ち着くやわらかさもあって。


可否館で休憩。優しいけれどキリリと背筋が伸びている、そんな店。迷い込んだ街の奥にひっそりとあるような、どこか秘密めいていて、でもどこか懐かしくて。他にお客さんはいなくて、漆黒のカウンターに座り、大きな窓の向こうの中庭を眺めていたらじーんとしてしまった。記憶の断片で積み重なったこころの中の焦点がキュッと合ったようだった。
やわらかく差し込む光は、ずっと変わらずに店内に満ちているのだろう。
何十年も年を重ねた風合いがあるのに古びていなくて、カウンターはピカピカに磨きあげられ、店内の隅々まで手入れの行き届いた美しさがあるのです。
珈琲をすすり、店のかたに東京から来たことを話すと「今日は平日だから静かですが、このところは休日となるとお客様も多くてお待たせしてしまいます」とのこと。やはり昨今は取材も多く、観光客はとても増えたそう。語り口からはどんなときもどんなひとにも丁寧に接してくださるこころが感じられます。
店を取り仕切る人の精神性を感じさせるよな「今も生きる美しさ」を持つ店は実のところ、あまりないんじゃないだろうか*1。観光スポットとなり賑わっても、代々引き継ぐやり方で同じように、日々を丁寧に、変わらない美しさをもって迎えている姿勢が伝わってくるのです。
「秋には秋の、冬には冬の美しさがあって、いいですよ」
透明に澄んだ中津川の風景と、ふと重なりました。

*1:「民芸を扱った喫茶」も各地にあるけれど、案外古いままで、日々をおざなりの店も多い