南方の街で見た夢は


東京から南方にある街の、アーケード商店街から誘われるように細い路地を曲がると突き当たりの、縞の庇がかかったその建物が気になって、アンティークショップかしらと中を伺ってみると、喫茶室だった。灯りを落とし、古い調度品が並べられたこの店は、同年代と思われる女性がひとりで営んでおられ、お品書きや食器などに彼女の意志が感じられた。カウンター前のテーブルには常連と思われる年配の方々が店主を交えてお喋りしており、一番高齢であろうおばあさんが昨夜見たという夢の話をしていた。聞こえてくる会話の断片は幾分不思議めいており、店内に流れる戦前の歌謡曲の少々歪んだ音響が劇伴のようだった。夕暮れ時の薄暗く柔らかい光。ぼんやりと奇妙な感覚にとらわれてぐるぐる旋回し、いつの間にか眠ってしまった。その後どうやって帰路についたのか、思い出せない。