HMV渋谷ラストデイ

最後の日。店内は大混雑。かつてだって、これほどではないけれど土日は混んでいたよね。お祭り気分で閉店ならばそれもいいけれど。
ここが無くなると私は単純に困る。ここで新譜は勿論、旧譜でも気づいてないものに出会っていたから。スルッとブックファースト(元は旭屋か)に入って、駅へ向かう道がヒミツめいてて好きです。
WAVEが、シスコが、ZESTが、無くなったときとは違う喪失感。私が音楽を聴くことに自覚的になったときと同じくしてこの店が出来、時間を共有していたからだと思う。
タワーレコードで買えばいいじゃん、ネットで買えばいいじゃん、ってことではなくて。新譜だって全世界で毎月どれほどリリースされるのだろう?その中で埋もれた良盤に如何に出会うのだろう?

本社一括でオールラウンドに売れる盤をどこも同じPOPを付けてドーンと展開する、それは全国チェーン店ならではの販売方式です。一方、個人経営によるCD・レコード店は基本的に特定のジャンルを自らが目利きとなって販売します。
太田さんはその2つを上手く結びつけて、ひとつのやり方を作りました。そこには邦楽洋楽新譜旧譜関係なく、いい音楽に「出会う場」がありました。
勿論それまでにもWAVEを始め、そういうやり方はあったとしても、服を買い・映画を見・ライブに行く「渋谷という街」だからこその「新しいやり方」として発信したのだと思うのです。

太田さんが辞めて、HMV渋谷の旧店舗終盤のころは、その街の店員の選んだものというよりは「本社から送られてくる売れるCDを売る」店になったように感じました。POPも手書きではなく、どの店舗でも同じものになっていました。98年、CDがバカ売れしていたころ。

その後レコ屋がどんどん無くなっていったけれど、数年前からHMV渋谷のロックコーナーが面白くなっていました。
雑誌の表紙を飾るようなミュージシャンの奥に、名も知らぬミュージシャンのアルバムが試聴機とともに置いてある。印刷されたコメントには書いた人の字が、心意気が感じられるのです(そういえば太田さんが書いたコメントの「感覚」は今でも思い出せる)。
正直言って何枚売れるのかわかんないようなものも多いけれど、ジャンルレス・新譜旧譜関係なくごった煮で、店員さんの目利きで大きくひとつに纏まって、3階の全体を使って回遊できるように並んでいて、あれこれ見つけては購入して。
スモールワールドの微細なものだけではなく、今売れてるものも一緒に、他の階も回って。そこが個人店とは違うところ。

全国チェーン店だけど、「だからこそのやり方」で、店員さんが良い音楽を伝えるために販売してくれていて、それが実を結んでいるように感じていたから、本当に残念でなりません。
この場所は無くなっても、どこかで新たに始まることを応援したいです。だって、店が売るんじゃないもの。人が売るんだもん。

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昨年末に書いたことを改めて。

「耳に届くまでにどのような経路を辿ったのか」「どのように所有物とするのか」が多種多様化した今、音楽を聴くことは「イベント」でも「装飾」でも無いことを、私はきちんと捉えたい。

今日のHMV渋谷の人ごみは、「昔はよく行ったけど」「思い出が」云々のイベントとして部分が大きいことは否めなくて歯がゆくはある。最後だけ有難がってキモチワルイ。。。

昨日も買ったけど、今日は最後に2枚買って、お別れ。
→追記しました。 http://d.hatena.ne.jp/mikk/20100823/p2
"「90年代の渋谷系のころはよく行ってたよね」って過去形の店舗では決してないってことです。"
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