ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール

God Help the Girl

God Help the Girl

Belle and Sebastianのスチュアート・マードックが音楽は勿論、監督・脚本を自ら務めたミュージカル映画。元々は2009年にスチュアートがサイドプロジェクトとして始めたもので、クラウドファンディングで制作というのが今だなあ。都内では渋谷のシネマライズではなく新宿のシネマカリテで上映*1ということにも、2015年に日本で公開という時代性が表れていると思っている。「僕の好きなシーン100」な作りとその引用っぷりに、ヴィヴァンやシネセゾンで見た映画を思い出す気持ちを抱かせるなあなんて、90年代初頭を背負い込んだまま東京に住んでいる私の見解だけど本国ではどう思われているのかな。

「If You're Feeling Sinister」リリース時にHMV渋谷のセンター街側から地下に降りて左の、新譜コーナー前に赤いジャケが並んでいた光景を今も覚えている。聴いた途端に魔法に掛かってしまい、「Lazy Line Painter」とともに今でも聴くと息が苦しくなってしまう。その後「This Is Just A Modern Rock Song」ではそのパンクな精神に痺れたのを思い出すけど、以降急速に魔法が解けてしまったのだなあ。ある意味謎に包まれていた存在が来日などで目に触れるようになり、案外マッチョなんだなあと思ってしまった気がする……。そういう勝手な齟齬もネット前夜ならではなのだろう。

今回の映画に関してふわっと浮かぶような魔法にかかることがなかったのは、青春の痛みを共通項として持てないからなのか、もはや魔法が効かなくなったからなのか。
久しぶりにがっつり彼らの曲を聴いた。思えば部屋で座ってじっくりと、ひとつのミュージシャンのあるアルバムを通して聴くことは今や珍しいのではないだろうか。私は移動中にヘッドホンで聴く行為が苦手なのでしないけれど……。
そう、これはミュージシャンの「新譜アルバム」という概念が消失し、1曲ごと切り売りされ(いや、”買わなくても事足りるのだ”!)、外で”ながら聞き”が当たり前の時代に対する、スチュワートの挑戦なのではないか。何しろ、椅子に座ったままじっと集中して、スピーカーのちゃんとした音響で聴くことが出来るのだ。(「攻殻機動隊」の映画を映画館で見ること=Corneliusの新譜を優れた音響で聴く、みたいな)先にサントラを聴いた人はどう思ったのだろう。
ボクの好きな音楽やファッションに風景、日々の暮らしの中にあるトキメキを並べて(それはかつてはスクラップブックに、今はインスタに)、映画という形態を借りて製作し、聴かせてくれる立体的な「音楽アルバム」。映画って包括的な制作物だなあ。「BEAT UK ベルセバ特集」とでもいうように、PVが次々と流れていく。

PV的だからこそ登場人物各人の心象深くは描かれないし、3人以外の存在はおざなりなのだろう。それと、おしゃれぽく見えて実は野暮ったいのが「スチュアート・マードックさん作」って気がします(ほ、褒めてます)(初来日公演での唖然状態を私は忘れられない……)。そんでもってなんつうか、文化系マッチョ目線だなー!(あ、言っちゃった)
そうそう、エミリー・ブラウニングが「汚れた血」のビノシュに見えた瞬間があった。でも不思議なのは、ミューズなのにちっとも素敵に映っていないこと。ボクの青春の痛み記憶がそうさせるのかしら。表情が定まらなくてどれが本当の彼女なのか掴めないのは、焦燥感でいっぱいの旅立つ前の一時期を描いた証なのかもしれない。

それにしてもグラスゴーにやっぱり行きたい!あの川沿いを歩いて橋わたってカヤック乗って、レコード買いたい。スティーブン・パステルさんのいたJohn Smith Bookshop行ってみたかったし、アズテックやオレンジジュースやTFCなど大好きなバンドが生まれた街を歩いてみたい。

*1:カリテは意識的なプログラムが凄いんだけど、テナントビルの地下にむりやり詰め込んだハコに映画を見るワクワクさが皆無なのがツライ