釧路の街の灯

釧路駅の近くに「和商市場」があります。鮮魚を始め野菜やお惣菜などが並ぶ市場です。

観光客向けであるかと思いますが、雰囲気を味わうには楽しいです。「勝手丼」というのが有名で、惣菜屋で買ったごはんを詰めた丼を持って、各店で刺身を1枚づつ買い、自分の好みの丼にするというもの。食べるスペースもあります。値段が気になってあんまり載せられなかったケド、名前を初めて聞いた白身のお魚を何枚かのっけて食べました。蟹を箱買いして豪快にむさぼり喰ってるご夫婦もいました、スゴカッタヨ…。

和菓子屋さんもあって、大福など素朴な餅菓子が木枠のガラスケースに並んでいました。写真右の三日月形は「中花まんじゅう」、どら焼きみたいな生地でこし餡を包んだもの。写真ないですが「べこもち」という上新粉をつかったねっとりとしたお菓子が美味しかったなー。ういろうに近いかな。黒砂糖をつかっているようで、見た目は茶色いのです。市内の他の和菓子屋さんでも売っていたので、この地域に馴染みのものなのだろうなあと帰ってから調べたら、「北海道から東北地方の一部で、5月の端午の節句に食べられる」そうで、ちょうど季節物だったのねえ。


市街地を歩くことにしました。駅から続く大通りはかつては銀行や大手企業の支社があったのかなという建物が並びます。でも働く人々が見られない…。


閉ざされた百貨店跡を曲がると、わ、わ、わ…。人は歩いていないし、シャッターが閉まったままの店が続いています。昨今よく聞く話ではあるけれど、これほどまでとは…。
賑わう大型店舗と衰退する商店街という構図はよく語られるわけですが*1、それだけの問題ではないような静けさに満ちた街。なにしろ商いに必要な「根本的なもの」がごっそり消失しているのです。人々がやってきて毎日の買い物をしたり、また、ここで商いをして暮らす人々がいたり、そんな「普通の街の普通の日々」がまるで感じられなくなっています。
支社を撤退させる企業も多く、定住する人が減ったこともあるでしょう。またかつては港に船が入れば乗組員が商店街でお金を落としてくれたといいますが、そんな羽振りの良さもなくなったとき、商店街の人はどうしたのか。これらが状況を加速させたようにも思えます。
初めてこの地を訪れた観光客が簡単に口にしていいのか迷うところはあるけれど、でも。行き交う人が少なくなったとしても、それでも灯っているものはここにはもう無いのだろうか。

半ば呆然としながら歩いていたら画材屋さんと並んで古本屋さんがあって、入ってみました。

蔵書には北海道の歴史や植物書を中心に、幻想小説や映画や音楽の評論などややっと来るモノが結構あってワクワクしました。それにレコードも置いてあって、いわゆる産業ロックな面々の間にfeltの3rd国内盤(帯付き)を見つけてびっくり。。。常連と思われるおじいちゃんが店主さんとずっと話していました。
この店内に釧路で暮らしてきた人々の日々がぎゅっと詰まっているようで、周囲の街並みを思い返すと殊更に考えさせられてしまいます。


夜になると、霧に包まれた呑み屋街には人々が集まり、どの店も繁盛しているようでした。居酒屋が並ぶ一帯の向こうに、ぽつんと灯る灯り。

ジャズ喫茶! 中に入るとピアノと大きなスピーカー。低音がズンッとからだに伝わってきます。壁には大野一雄のポスターが存在感高く掲げられていて、長い歴史を刻んできたなかで積み重なったものが端々に見られました。店内のボックス席に座っていると、初めて来たのに毎週末ここでジャズを聴きにやってきているような気がしてきます。店主のオジサンは60代くらいでしょうか。人柄の良さを感じさせる顔つきで物腰も柔らかく、若い常連さんとジャズ話をし、同じ年頃の方々と日常的な話をしあったり、ああ、いい空間だなあ。

商店街を歩いた時に無いと感じたものはこうやって残っている。街の灯はここにありました。

*1:釧路には某SCが2つあり、道内一の売上を誇るらしい