「やさしい女」/武蔵野館

旅記録を進めながら先日見た映画のことを。会社帰りに新宿で映画を見るときは、たいていメックでレーズン入りのミルクスティック、生ハムとモッツァレラチーズのサンドの2つを買う。本当はゆっくりとカレーを食べたいけれど時間が迫っているから、パッと買ってロビーでぱくり。映画を見るために食べ物がおろそかになってしまうのは、お腹も心も切なくなるからせめて手軽に美味しいものを。ミルクステックは最近よく見かけるようになったけれど、好みでズバリはなかなかなくって、今ならメックが一番。思えば初めて食べたのが阿佐ヶ谷にあった「bagle」というパン屋さんので、大きさも中のクリームも絶妙な大きさ/硬さ/甘さだったなあ。

さて「やさしい女」、デジタルリマスターにより鮮明な画になったけれど、クリア過ぎない靄が覆う色調に安心感を覚える。とはいえ終始張り詰めた空気がそこにあった。無機質な表情と物質。階段、ドアノブ、硝子戸、手、足、眼の反復反復反復・・・そして車の、靴の音、音。音。それ自体には意味を持たないのに、そこに映っているだけで台詞や説明を極端に配した物語に意味性が生まれているのだ。ドミニク・サンダの空虚で芯の強く鋭い眼差し。青空に舞う白いストール。残像となって心に染み付いている。
観念がキッチリとある寡黙な映画だけど、彼らが生きているって自然と思わせられるのは、1960年代のパリの街や人々の暮らしが映しだされているからでしょうか。歩き方や食べ方飲み方にも、人の気持ちって如実にあらわれる。他の映画館でもう一度見たい。