少年、機関車に乗る

会社帰り、遠回りしてカレーを食べ、汗だくで電車を待つ駅のホーム沿いの草むらから、リリリと虫の声がした。
渋谷へ。ユーロスペースにてレイトショー。好きな映画として必ず答える1本が久々に(前回は2007年同じくユーロ)上映。そのキッカケはあまりに哀しいものだった。

追悼バフティヤル・フドイナザーロフ
2015年4月21日、バフティヤル・フドイナザーロフ監督が逝去しました。享年49歳。 日本で初めて公開されたタジキスタン映画である『少年、機関車に乗る』で観客を魅了し、以来タジキスタンから常に新たな驚きを届けてくれたフドイナザーロフ監督。その業績に感謝し、代表作3本を追悼上映いたします。(ユーロスペースHPより抜粋)

「ルナ・パパ」以後、お名前を聞かなくなり、お住まいの土地柄のこともありお元気でいらっしゃるか時折心配していたのだけど……。嗚呼。


ロビーに飾られたチラシを撮影。このデザイン、90年代初頭って感じがすごくする。DTP以前というか。9割近くは埋まっている席は同年代以上の方が多いだろうか。みなさんもきっと大好きな1本なのだろうな。他の日はわからないけれど、若い世代が目立たないのはあまり再評価に挙がらなかったということかな。

公開時から幾度も見ているけれど、毎回新鮮な歓びに満たされる。退色した赤錆色の世界は瑞々しく白い光を放って眩い。消え行く輪郭線に泣きそうになる。雨の音風の音走行音にギターの音色、列車が描く緩やかなカーブの果て。この世界のたいせつなものだけが、スクリーンの上に残ってて、奇跡的までに美しい。ただただ、好きだ。具体的に説明なんて出来ない。私のすきなものが詰まった大切な作品だなあ。

この映画を知ったときのことを鮮明に覚えている。帰り道の電車の中でたまたま学校の先生と一緒になり、恐らくネガティブなことを話したであろう私に、ちょうど公開しているから見るといいわよと勧めてくださったのだった。あれから随分と経ち、私はささやかに楽しく暮らすことが出来ていて、この映画はいつだって私を連れて行ってくれる。
お兄ちゃんとデブちんが今も笑って暮らしていますように。