珈琲と酒

会社帰りに遠回りして、珈琲豆を買いにいった。店主の焙煎士さんは一時期よりも随分お元気になられてよかった。
2種頼んで袋に入れて貰うあいだ、瓶に入って陳列された豆を眺めていた。どの粒もひとつひとつが美しい形と色をしていて、見るだけで嬉しくなる。会計後「よいお年を。まあ私はあとどれくらい続けられるかわからないけど。」と仰るので、「そんなこと言わないでくださいよ!」と返答した。「まあね、焙煎していても未だに迷うことばかり。珈琲豆は種だから、そのときの温度や湿度によって、生きようと今の状況に合う新たな熱を出していくの。今日はこの温度でやってみようとすると甘い味わいになるけれど、こっちにしてみると旨味が出て来る。どちらが正しいのか美味しいのか、私にはわからないのよ」「私は珈琲、嫌いなのよ。本当に珈琲が好きな◯◯さん(某焙煎士)の豆はやわらかいでしょう、好きだからそういう味になるのよね。」「私は珈琲よりもお酒が好きなのよ。私の焙煎した豆はスッとした切れ味があるんだけど、お酒もそうでしょ? うちの珈琲好きな人は飲ん兵衛が多いのよ。お酒好きか呑めないかで、焙煎も変わるの。◯◯さんは呑めないからそういう味なの。他のお店の珈琲飲んだときに、この店の人はお酒好きかもなと考えて飲むと面白いわよ」Sさんのお話はいつも発見がある。