another labo tour

ヤマジカズヒデ ソロライブ。名古屋・大阪と回ってからの下北沢。2ヶ所だけとはいえ、馴染みのトコ以外ではライブしない人が同じセットで場を変え最後の回というのはどんな感覚なのだろうか。MCはネタ帳を用意し、"この話題は名古屋では失敗しちゃった"などと反省すらネタにする、リラックスした雰囲気がこの日はあった。


帰宅し届いていた日経新聞 夕刊 1面コラム「あすへの話題」を読む。今月はピアニストの仲道郁代さんが担当でタイミング的にピッタリな内容だった。

・「弾ける」ことと「演奏する」ことは私の中では別の話だからだ。私にとって「演奏する」とは、その作品に相応しいと考える音を極めて細やかな感覚と考えをもって表現することだ。
・作曲家とは別の人間による考察によって、本質は浮かび上がるのだと思う。だから演奏家にはそのための努力と試行錯誤が必要なのだ。
・そうやって準備した曲を、コンサートの場で、自分の最上で表現する、その一回限りのために日々がある。
・極限まで準備を重ねたのちに、コンサートでは"降りて"くるのだ。
降りてくる瞬間 ピアニスト・仲道郁代: 日本経済新聞 より一部抜粋(2022.9.17付)


「弾く」と「演奏」は別とはなるほど・・・ヤマソロは時により「家で弾いてる」のを聞く、になりがちで、それは観客を前にした「一回限り」の演奏ではなく、日々の試行錯誤中もある。今日はライブハウスで「演奏」感覚に幾分「弾く」が混じった感じ……。


前回のライブを見て考えたのは
>トレースと模写、完コピとカバーとサンプリング。目的と意識の持ち方次第であり、センスが問われる。
ってことで、こじつけるならばクラシックの演奏家の行為は「カバー」とすると、先述の記事に繋がっている。


クラシックの演奏家は何百年も前の楽譜を繰り返し「弾い」て、作曲家の意図を「考察」し、宿る「本質」を抽出し、ステージで「演奏」する。ロックミュージシャンのコピーが、単なるコピーに留まるか/それ以上の何かが生まれるかは、演奏者の力量次第だ。技術は勿論、「極めて細やかな感覚と考え」を持っているか。


本編ラストの「setting sun」はChemical brothersのカバーで、個人的には気恥ずかしさが伴って好きではない。しかし今日はトラックの作り込みが好みで、中盤からのギター弾き倒しはヤマジさんの中のスイッチが入った感じで「演奏」となり、すこぶる良かった。繰り返し弾く中でこの曲の本質が浮かび上がり、変幻自在のギターによって抽出されていた。原曲は骨子だけになり、好きな装飾が施されて「自身の曲」化していく様はまるで、リノベーションのようでもあった。「リノベは魔法」だからね(ドラマの見過ぎ)



1. garden
*ヤマジさんが紡ぐ音は繊細に織られているから、薄い層が幾重にも重なった心の隙間にスッと入り込むんだろうなと思いながら聴いていた。
2. sunshine superman (donovan)
3. lost cause (beck)
*「how to ルーザー」教室が。これを皮切りに「マイブラ講座」「トム・ヴァーレイン講座」「サーストン講座」があり、これまでも何度か開催されたけど、今日が一番ちゃんとやってた。サーストン弾きながら「これだとdipになっちゃうけど」に笑う。あと中島みゆき!やはりこの時代のフォーク気質がヤマジさんにはあるんだなと納得
4. さらさら
*この曲、dip文脈ではないところで聴かれて欲しいなあ。「さかなを聴いてギターの"こういうところ"に憧れて作った」と弾いてくれた。「西脇さんには言ったことないけどね」あ、西脇さんと対バンしてほしい!告知チラシはおふたりの共作で!
music.youtube.com

5. ばるぼら
6. water colour
*「髪の毛ツンツン立てて、ボーダー着て、ラバーソウル履いてた頃の」と言ってからのこの曲。dipでもやってるけど明らかにflagの音だった。ジャズマスターだけどflagだった。私は音源しか聴いたことないけどそう思った。演奏後「当時やりたかった音が出来た」自分の曲だけど時を経て1人でそんな音に辿り着くことが出来るのだな。「flagもギターもう一人いればよかったんだよな」「イトウのベースが頭のこの辺に鳴ってて」とも言っていて、flagに対する悔いがあるのだなとも感じた。
7. over sleeping days
8. over sleeper
9. 抱擁 (mucti)
10. セル
11. since yesterday (Strawberry switchblade)
12. blue bus
*やったー!と思えども、短めで深みには至らず。
13. setting sun (the Chemical brothers)


アンコール。再び登壇し煙草の煙に巻かれながら場内に薄く流れる機材からのノイズに「こういうホワイトノイズが心地よくて。これを音楽と思うかどうかで違ってくる」とポツリ。私は音楽をかけないでクーラーかなにかの音がシュコーと微量に聴こえる空間が好き。
1. super lovers in the sun
2. come out
まさかのヤマジ歌唱ver!初めて聴いた!この選曲キッカケはなんだろか。


昔の自曲や影響を受けた曲に「今の自分の空気」を吹き込み、最適化された演奏がこの何回かの答えだけど、もう次のタームへ向かう印象があった。
「今」吸っている空気を「いつもの」煙草の煙で燻すことなく「新たに」エアドックしてもいいのかもとお節介ながら思う。若手と対バンしたり、queではないトコでやったり、同じ水だけど違う流れを意識的に引き込んで欲しいな。