ギャラリーと美術館を巡った2日間

10月8日 連休初日、原宿駅前の喧騒をソッと離れて真新しいビルの上のギャラリーへ。岡﨑乾二郎展。昨年脳梗塞で入院しリハビリ後の最新作。重なり溶け合い、その隙間を辿る。
www.blumandpoe.com


→ノープランで外出したのでこのあとどうしようかなと考えて、明治神宮に足を踏み入れた。参拝側ではなく参宮橋方向へ歩くと人通りは少なく、雨上がりの水分を含んだ樹木に包まれた。ここで面白いのがこんなにも「自然」のなかなのに電車の発車音が聞こえることだ。そして足が進むごとに鳥の声が増えていく。ああ気持ち良いなあと周囲を見渡す。


ああ。この光。こんな光に出会うために歩いているのだ。明治神宮の森は何もない原野に植樹してつくられた。内閣は"日光の杉並木のように"針葉樹の森を主張したところ、造園学の専門家が"この地で長く育つ森にするために"常緑広葉樹にすべきと主張して設計し、維持管理を丹念に続けて今がある。この光は100年掛けた歳月が届けてくれたことに、ありがたく思う。


→参宮橋口を出て、そうだ、ちょうど向こうに見えるオペラシティに行こうと思いつく。アートギャラリーにて 川内倫子「M/E」。会場設計が素晴らしい。ちと過多な場面はあるものの、元々インスタレーションな展示もしてきた川内さんが空間作りを専門家に託したからこその見せ方。これまでの展示はかれこれ20年来、様々な場所で見てきたけれど、川内さんが写しだす光に包まれ溶け込んだ感覚は初めてだった。大勢の人が通りすぎてしまう瞬間の、あわいの、光。だから写真を撮るのだなと沁みた。だからこそわたしたちは生きていくのだ。崇高な自然の下で生きるわたしたちの日々の愛おしさ。
rinkokawauchi-me.exhibit.jp





10月9日 晴れそうで晴れない。今日は恵比寿、都写真美術館へ。野口里佳「不思議な力」オーソドックスな展示手法で展開。川内さん同様に様々なギャラリーや美術館で見てきたときと異なる、極めて"作品然"とした感覚を受け、いつも感じてきた"不思議な力"が弱かった。これまでの作品をコンパクトにまとめたような構成であっさりと感じてしまい、照明も的確に思えなかった。川内倫子さんよりも先に見れば印象は違ったかもしれない。「父のアルバム」は何年か前にギャラリーで見たときの心の震えがよりグッと深まったのは、題材と被る私の環境の変化ゆえだろう。幼い頃の写真は、撮影者である親の視点なのだ。作品点数が少なくて逆に良かった。あのときくらいあったら号泣してた。写真に写っていないものに心を揺さぶられる。
topmuseum.jp


写美のカフェは吉祥寺のコマグラカフェが運営をしていますが、何故プロポを取るに至ったのか。この手のカフェが行政施設に入るというのも、時代の流れだなあと来るたびにシミジミする。


→ ナディッフへ移動。唯一営業中の3階MEMに上がり、中里斉「painting outside part1」すごく好き。かっこいい…と幼稚で単純な気持ちを、スタッフのかたが丁寧に説明くださったおかげで気付きが発見と理解に繋がった。こういう会話ができて嬉しい。60年代に渡米し生涯をアメリカで過ごした彼の作風は、抽象とはいえ日本人作家にありがちなドロッとした風土を感じることがない。時代性も強くなく、今見ても古びて感じることがない。レコードジャケットに起用されてもおかしくないし、広い空間でも見たい。
mem-inc.jp


→ 代官山の向こうまで歩いて、LOKO galleryにて 高橋恭司「GHOST」どれもバシッと決まってて強いけれど翳りがあって、30年前も今も、大判もポラも、共通の"ghost"が漂ってるのがすごい。1960年生まれの彼が雑誌などで活躍したのは30代。華々しかったあの時代に於いて、カッコよさの奥にある不穏な空気を切り取っていたのだな、今思えば。それは刹那であり永遠であったからこそ、今も揺るぎない眼差しで射抜くのだ。
lokogallery.com


→ 代官山と渋谷のあいだはぽっかり感があって好きだ。通り沿いの建物も変わってきたけれど漂う空気は今もそのままある。

この通せんぼう、Googleマップストリートビューで辿ると2009年は右が古い木造のアパートで、この道は砂利道だった。

桜丘の坂道の途中で。向こう側が巨大な壁になっていて驚いた。どんなに風景が変わっても、鬼丸がダルく歩いているんだろうなと思えてしまう。


90年代に上京して以来、渋谷〜代官山〜恵比寿間は何度歩いたかわからない。風景はどんどん変わる。かつて彼らの作品を見たギャラリーも今は無い場所が多いことだろう。写真を写真機ではないもので撮ることが「日常」として当たり前になったなか、写真家として活動を続ける方々の眼差しの強さを改めて感じる。私にとって作品を見ることは、散歩して景色を見ることと共通している。これからも歩いて観る力を蓄えていきたいな。