ニシノユキヒコの恋と冒険

井口奈己監督ようやくの、久々の、新作!渋谷HUMAXにて。大メジャー感タップリでどうなるのかなーと思ってたけど、やっぱり井口監督の映画、でした。ストーリー云々ではなく「どう撮るか」。たっぷりと作り出される贅沢な時間は弛緩しているように手綱をキッカリと握って、つくりたいシーンをイッパイ盛り込んでて楽しかった。楽団の使い方が好き。
それにしても中村ゆりかちゃんの起用は「5windows」以後によるものかしら。わずか数年でぐっと大人びた(でもまだまだ食い気先行な)なあ。生/死、楽団、歩きながら唄う……こじつければ繋がる不思議さよ。真の主人公は彼女でした。
にしても不思議な映画であった。原作は未読だけど川上弘美なので恐らくちょっと奇妙な感触があるのかなあ。映画では「モテモテのニシノくんと彼を巡る女たち」というよりも、「ニシノくんは女たちの寂しい気持ちが作り上げた偶像なのだ」って思えてきてじわじわコワかった。ホラーですがな。そう考えるとニシノくんの実体の無さ中身の無さにも合点が行く。だって彼、「恋」も「冒険」もしてナイ!カッコイイとはいえ、なんでこのひとそんなにモテんの?どこに惚れちゃうの?としらーっとしちゃうけど、要は都合のいい偶像だからして。でふと思い出したのが「薬用ビューネ」のCM!そういや最近見ないなあれ。
それともうひとつ、「映画好きで話し上手な阿川佐和子中村ゆりかちゃんに法螺吹く話」だとしても面白いなー。ニシノくんが喋ってくれた体験談とすると無理あるのでね*1。ああいう役回りを阿川佐和子が演じることで説得力と想像力が生まれるのだなあ。んで、あの飴ちゃん*2!!!
それにしても私、竹野内さん苦手なんだなあとつくづく思ってしまった。あの軽妙さは素晴らしいけれど彼の濃い造形だとコントっぽく見えてしまう。そのうえ生活感を排除したインテリアの世界観が、ひところの「anan」ぽいなーと思ってしまった。となると演出術としての動物たちがカワイイ雑貨になってしまい(狙いかもしれないけど)、璃子ちゃんの部屋や邸宅での葬式のガーリーっぷりもあいまって、そんなトコが素直に楽しめませんでした。幽霊の印たる演出までも安っぽく感じてしまった。
お茶目な阿川さんもかわいかったけど、オノマチさん*3の「恋に落ちた瞬間」の演技はカーネーションのとき同様に巧いなーってしみじみした。麻生さんは最近演じてる似たような役柄に辟易していたので、クールな佇まいに「帰ってきた!」って感じで嬉しかった。あとは木村文乃さんがとっても良かったなあ。瞳の奥の不安定さが素敵と思ってたところで、矢崎仁司監督の次回作に出演て!ビックリ。
さっきガーリーな云々とキケンなキーワード挙げちゃったけど、実のところは「商業映画であっても私は私」、と気概を持って挑んでるところがビシバシ感じられてそこがやっぱりスゴいと思うのです。

*1:あんな話を年上の女性にする男なんて気持ち悪過ぎる……

*2:まさかの「セリーヌとジュリー」!

*3:そういやオノマチさんが会社で受ける仕打ち、ああいうのイマドキあるのだろうか。あんなのありえんわと妙に現実的になって考えちゃうけど。ニシノくんが「偶像」とか「法螺」だと強く思えたのは会社編の描き方で、不自然で嘘っぽかったんだよねえ