ハンズ・アップ!

金曜日。定時にピタッと席を立ち、すたたたと向かうは飯田橋。駅を出て外堀通りを進む。ゆったりとした道路の視界の広がりは気持ちよい。立ち並ぶ桜の樹の新緑が輝き、中央線と総武線の走行音が聞こえてくるこの通りは大好きだ。
角を曲がると坂道。この界隈の起伏ある街並みは楽しい。

この時間でもまだ明るい!このまま散歩したくなったけれどいやいや今日はずっと見たかった映画見るんだよー。

久しぶりの日仏へ。緑が濃く、ツツジが紅く咲きほころぶ庭に嬉しくなる。

変わらぬ佇まいの本屋も好きだ。

さてはて「ハンズ・アップ!」素晴らしかった。
なんて瑞々しい愛が溢れているのだろう!柔らかな光が差すなか、子供たちが交わすちょっとした仕草と言葉に血の通い合いを感じ、そのたびに震えた。そして雨に濡れる窓ガラスのシーンの透明な美しさったら!
暗号やら何やら無邪気な姿が実に幸せで笑いが絶えなくて。そんな日々を描きながら実のところ、世の中への静かなる”怒り”と"抵抗"であることに驚かされる。”ハンズアップ”シーンにウッとして(ゲラゲラっと笑い声が聞こえてきて驚いたケド)、パッと突き放したよなラストに胸が詰まり、涙がこぼれた。
子供たちのひと夏のキラキラした思い出がフランスの社会問題に繋がっていくところが凄い。暗号や地下室にはしゃぐ無邪気な”抵抗”も絡めとられてしまうのだ。さっき「幸せで笑いが絶えない日々」と書いたけれど、劇伴が時折不穏な弦の音色で、根底に終始影が漂っているのが印象的。私には全然聞こえなかった(!)携帯着信音のモスキート音だとか、音の使い方も良かった。
日々の生活の灯火のささやかな明るさは本来誰にも降り注ぐひかりだ、でもそれはパチンとスイッチがはまるとひとたび崩れ去ってしまう。ああ、こんなかたちで意志を表明することが出来るのだなあ。まさに映画の力だなあ!怒りをそのまま怒りとして吐き出すのではない。その提示はとても聡明で美しい。

胸がいっぱいで、すぐ電車に乗りたくなかったからそのままお堀端を歩いた。日仏からの帰り道はそういうことが多いなあ。