新陳代謝? ~ 市営坂出人工土地

香川旅行二日目。高松から西へ電車で数駅の坂出市へ向かいました。駅を下りるとガランとしており、目の前にはイオンが・・・

駅から北へ続く商店街を少し歩くと見えてくるのが・・・

ぱっと見、よくあるアーケード商店街だけどそうではないのです。アーケードに見える部分は人工的に作り出した地盤なのです。

「坂出人工土地」
大高正人が設計し1968年〜86年の4期に分けて完成。商店街に面した一区画約1.2ヘクタールもの土地に「人工地盤」を設け、下層部には商店街や駐車場、上層部には市営住宅が建てられ、ひとつの「団地」(=都市)が出来上がっています。


ちょっと奥へ進んでみると駐車場が。上に樹々が見えますが、屋根ではなく「土地」なので植栽されているわけです。

こう見ると普通の駐車場です。

木が植えられている!



駐車場を過ぎると頭上がスロープになっていて

(真向かいのガレージが道に挟まれている格好だったので、うまく見えました)
スロープを上がると・・・

ホントに住宅が建っている!

(眼下に犬が見えるよ)


段々になっている棟のつくりが素敵。

階段を登ってみます。




この景色!この構造わかるでしょうか。

集合住宅だけど戸建てのような雰囲気。



この祠、人工土地だから当然本来はないわけで、住人たちが新たに設置したのだそう。



思い思いの植栽がされ、人のニオイがする空間になっていました。(個人利用が禁止されていないのかどうかはさておき・・・)玄関扉を変えたりとか、どこまで委ねられているのか謎・・・。
住棟が少しづつズレて配置されていて、元々の街並みのように路地に迷い込んだ気がしてしまう。

スロープが新設されていました。

手前の丸いのは明かり取り。

ちょっと古く傷んでいる・・・


更にこの上にももうひとつ地盤が設けられています。

車もあるし、ここが地面に思えちゃうけど、

こちら側を見れば上にいる。「二階」にいることを忘れてしまう。

ぐるりと回って

奥にあるのは市民ホール。その上に建っているのが先ほどの「段々の住棟」。


この階段!

市長の銅像・・・

「人工土地」の記念碑がひっそりと。


続く商店街。壁面の色味やピクトが80年代っぽいなあーって思ったら、最後の4期として1979〜80年施工だそう。

パン屋さん。「町の」って雰囲気。
この棟を向かい側の歩道から撮ってみます。



大きな地盤を作り、上に更に複数階の住宅を建て、下に商店を入れているのがよくわかります。

さっき見下ろしたあたり。

この通路の間にも店があり、やっぱりなスナックとか。


人工土地は、”住宅をそっくり上に持ち上げ、空いた下層は「都市の新陳代謝(=メタボリズム)」を促すために使われること”が、本来の目的であり思想です。しかし1966〜80年と長い年月をかけて完成し、そこから更に35年を経た今、新陳代謝どころかじわじわと壊滅を待つように感じられます。意識高らかに造られたものの維持にかける費用に乏しく、設備の不具合とともに空き家が増えているようです。住宅にまつわる設備が急激に発達したこともあるでしょう。階段ばかりで高齢者には不向きに思われますが、恐らくは当初よりずっと住み続けている住民が殆どと思われ、新陳代謝が行われない要因でもあると思います。


坂出市は沿岸部が工業化したことで人口が急激に集中、住宅地が不足し増加した不法占拠住宅を解消するために始まった開発で、「土地を人工的に作り出し、二層にする」手法で設計した大高氏はこの経験を活かし、その後広島基町アパートを手がけるのです。
※昨年行った広島の記録をこちらに→ 「あのころの未来都市」はつづく〜 基町団地



建築家の「思想」が形になった凄まじいプロジェクトだと、実際に見て歩いたことでつくづく思わされました。しかし「ひとつの思想」が「不特定多数の人々の暮らし」によって表層が変わり、消失することを目の当たりにしました。当時、大高氏がどこまで考えていたのかはわかりませんし、市側に至っては管理をどうするつもりだったのでしょう。
建築は時代を映す鏡であるけれど、ただ建てて終わりではなく、その後の使われ方こそであり、維持管理が如何に大切であるかを改めて考えさせられます。こと、住宅となると住む人の個が立ってくるので一辺倒に行かない問題は絶対生じるし、集合住宅しかも公営となると、更に難しいはずです。前日に見た一宮団地と比較してしまう。市営と県営の違いもあるでしょう。
今後どうなるのかを考えずにはいられないけれど、造成された経緯と当時の契約内容が複雑なこじれをもたらしているようで、、、。権利や条例などクリアにしなければならない問題は山積みのようですが、坂出人工土地が「文化財」としての価値を評価され、使用されながら後世に語り継がれることを望みます。