ラヴェンダー色の店のケーキ

もう10年以上は前のことになるけれど、目白周辺をよく散歩していた時期があり、そのときに見つけたケーキ屋さんによく立ち寄っていた。ラヴェンダー色の建物で猫がマーク。女性が一人で営んでいて、パティシエだなんだという世間のブームとはまるで関係なく、住宅街のなかにひっそりとでも個性を放って佇む姿はなんだかヨーロッパの小さなお店のようだった。濃厚なチョコレートケーキと焼き菓子が好きだった。あるとき久々に向かうとその店は無かった。今でも時折あのラヴェンダーの店を思い出していた。
昨日、池袋界隈の駅から歩き始めていつものように散策をしていた。初めて歩く街の、細い路地に古い商店が少し並ぶ通りに入ると、このあたりの時の流れが見えてきてオモシロいなあと思っていたら、見覚えのある色と猫の看板が見えた。あの店名も…。外から覗くとケーキ屋さん!まさか!
ガラガラと引き戸を開ける。棚に並ぶケーキに焼き菓子!奥から女性がいらっしゃいませと出てきた。
「あの…以前は○○駅のほうでやられていませんでしたか…?」「え?ああ、近くに○○があって…」
ああ!やっぱり!
「私、以前のお店のときに伺っていたんです。移転されたことも全然知らなくて、今日はたまたまこの道を通りかかって…」というととても驚かれて、閉店したのは交通事故にあったからで、暫く養生していたものの、回復してやっぱりお菓子屋さんをまた始めたいとこの場所に移ったことを教えてくださった。そして「とっても嬉しいです、きょうはなんていい日なんだろう…って思います!」といっぱいの笑顔でお話しくださった。
「私もとっても嬉しいです」とちょっと興奮気味で話し、いくつか買い求め、ありがとうございましたと店を出た。
帰宅して食べたチョコレートケーキはやっぱり濃厚で、パウンドケーキはバニラが効いた美味しさで、やっぱりほんとうに美味しかった。この10年以上の間、たくさんのことがあったけれど、味は変わらない…。出来そうで出来ないこと。偶然の再会がほんとうに嬉しい。