桜が繋ぐ縁

所用があり久しぶりに降り立った駅は賑わっていた。新しい店も増え、明らかに様変わりしている街並みをキョロキョロしながら歩き進め、駅周辺の一角を過ぎて交差点を左へ曲がる。
この通りはかなり狭いのに随分と車の往来が多い。整備されておらず、恐らく昔からの街道のままではないだろうか。歩行者よりも車優先な状態で恐々歩いていると、立ち止まっていた高齢男性に声をかけられ、近くにある病院への道を尋ねられた。土地勘のない街ではあるけれど、その病院は大学時代に一緒に暮らしていた姉が交通事故で入院したことがあり、記録の断片が蘇る。確かこの通りの向こうのはずとGoogleマップを見せながら、「この道をこのままもう少し進んで、最初の角を右に曲がった突き当たりですね。多分案内の看板も出ているかと思うのですが」と案内する。


この通りは歩きづらいので、このまま進むことをやめた。戻った道を暫し進むとこじんまりとした教会があった。見ていたら入り口にいた女性が「良かったら中へどうぞ」と通してくださり、お祈りをさせていただいた。高い天井の窓から降り注ぐ白い光が輝き、神のお告げのようだった。
再び歩き出し、交差点を右に曲がるつもりが、左の先に桜が見えたのでそちらに進んだ。数本の桜が並ぶここはもう満開だった。



太陽の光を燦々と浴びて輝く桜の美しさを見上げていたら、先程道を尋ねられた男性も見上げていたのでお互いに驚いた。この道は病院の並びだったのだ。


「先程はありがとうございました」

「いえいえ、無事に辿り着いてよかったです」

「最近亡くなった姉がこの病院で長年働いてまして。今山梨に住んでいるんですけど、50年振りにここに来たんです。」

「ええ!そうだったんですか!そんなご状況だったんですね。このあたりもずいぶん変わってしまって。」

「駅前で地図は見たんですけどね、記憶を頼りにこの道だったかと歩いていて、さっきお聞きしまして」

「そんな機会をお手伝い出来てよかったです。実は姉が30年近く前ここに入院したことがあるんですよ。」

「ええ、そうですか。それはそれは」

満開の桜の下で時を超えていろいろな方向から結びつく縁に出会う不思議さよ。

「あちらへ行くと○○町ですよね、このまま同じ駅に戻ってもつまらないので歩こうと思って」

「今日は晴れて気持ち良いですしね、良い1日をお過ごしくださいね」

50年振りの思い出の片隅にお邪魔できたことをありがたく思う。