6月6日に開催された東京都水道局長沢浄水場の見学会に参加しました。昭和32年に浄水場として稼働を開始、その名の通り東京都の浄水施設として世田谷区や目黒区など約50万人分の水を処理・供給していますが、神奈川県川崎市に所在しています(ありがとう川崎・・・!)。水道施設として管理維持への興味は勿論ありますが、本館の設計をモダニズム建築家である山田守が手掛けたその個性的な意匠をこの目で見たかったのです。年一回の見学会はそのたびになかなか都合がつかず、ようやく鑑賞することができました。
この優美な造形はどこか浮世離れしているせいか特撮作品のロケ地として多く用いられ、ウルトラマンでは「初代バルタン星人に占拠された科学センター」といった具合のため、その筋の方々から羨望の眼差しを向けられているそうですが、建物を前にして確かに昂ります!
なんといってもこの廊下の美しさが見どころ!ピカピカと輝く床面と両脇に立ち並ぶ、曲線を描く白い柱。これは「マッシュルームコラム」と呼ばれる建築様式で、湧きあがる水を連想させるのです。
この廊下は長くガラス張りになっていますが「操作廊」と呼ばれ、両サイドにある濾過池を監視するためのスペースなのです。今でこそコンピューター制御されていますが、昔は職員が張り付いて業務を遂行していたそう。その実務に特化した設計であれば勿論充分なのですが、機能美を推し進めながら「仕事をするにはどのような場所であるべきか」を考えた意匠が施されていることに、感激しました。現在は耐震性の関係で、斜めに押え板が付いていますが、「水道施設」という性格もあって丁寧にメンテナンスされて今なお美しい。
螺旋階段で下へ。
一部のみ、塗装を施さない柱が残されています。生々しくてこれも美しい。
本館の屋上へ進みます。
ここにもマッシュルームコラム。
屋上からの眺め。
建物前にあった守衛さん室もかわいい。
北側のこちらでは濾過を行なっています。
緑のところが先ほど歩いた廊下で、こうやって見ると「監視のためにガラス張りである必要性」はあるものの、実務的には内部の柱をマッシュルームコラムにする必要性は無いんだよねえ。それだけに、あの意匠を施した志が感じ取れるのです。
説明の時に使用された施設の断面図。
再び外へ。
銀色に光る給水塔。濾過池で使用する水を洗浄用に高圧で落とすために、高所に貯めているそうです。
土管!は実際の水道本管です。
ホレボレする美しさだねえ。。。
浄水場=インフラという実用的な建造物に、優雅な美しさをもたらしたことが素晴らしい。廊下もマッシュルームコラムと呼ばれる柱を配することで、夢のような異空間になるのだ。ただの四角いハコで働くのではなく、自分の仕事に誇りを持てる建物で働くこと。あの意匠はけっして突飛ではなく、水道施設である意味が込められている。機能美と造形美が同時に存在する建築物。今後公共施設の建替えは増えることが否が応でも予想されますが、誰かが儲かるためとかコストダウンだけではなく、高い志を込めることで時代を超えて永く存在して欲しいです。
最後にウワサの「東京水」をいただきました。とても美味しくてごくごく飲んでしまった。東京の水の管理レベルの高さを目の当たりにすると、確かにわざわざペットボトルで水を買うのも変な話ですね。。。終始、水道局職員の方々の丁寧で面白い解説を受け、その熱意に仕事への情熱を感じました。ほんとうにありがとうございました!
ちなみに、山田守は武道館や御茶ノ水の聖橋、京都タワーなどを手がけています。京都タワーには、操作廊とマッシュルームコラムを何処と無く思い出させますね。
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